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会社売却とIPOの比較

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本記事は、著者による『会社売却とバイアウト実務のすべて』(日本実業出版社、以下「本書」)の執筆において、紙面の関係上掲載できなかった内容を掲載した本書の追加コンテンツです。本書の24ページの続編としてのコンテンツであり、本記事単独では若干読みづらいこともありますが、ご容赦の程お願い致します。

書籍ではM&AとIPOの基本的概念等を説明しました。

ここではさらにこのM&AとIPOの比較をします。IPOとM&Aイグジット(会社売却)の違いについては起業家が知っておくべき重要な知識です。「バイアウト」というと、本来は「買収」を意味しますが、日本のベンチャー市場ではM&Aイグジットのことを「バイアウト」という表現で表すことも多いので、本記事でも「M&Aイグジット(バイアウト/会社売却)」と呼ぶことにします。

ここではよりこれらの実態の説明をしていきます。今回の記事では、イグジット手法としてのIPO及びM&Aのそれぞれのメリット・デメリットや、そもそものイグジットの基礎知識、企業価値を向上させるための施策をご説明します。皆さんが最適なイグジット戦略を立てる際の参考にして頂けたらと思います。

イグジットの種類とは?

創業者利潤を得るためのイグジットの種類とは?

非上場企業の株主の立場に立つと、「イグジット」として考えられる代表的なものに「M&A」と「IPO」があります。
新しいスタートアップが生まれる環境を作るためにも、スタートアップに挑戦する人たちには、創業者利潤が有ってしかるべきであり、
また、それぞれのイグジット手法が経済効果を生むことになります。創業者利潤というと、「IPO」を連想されるケースが多いですが、現在増加しているのが「M&Aイグジット(バイアウト/会社売却)」です。

アメリカではイグジットの9割以上がM&Aイグジット(バイアウト/会社売却)

アメリカでは、圧倒的にM&Aによるイグジットの件数が多く、VCの投資先である等の一定セグメントの企業群におけるM&Aイグジットの割合は9割以上となっており、ここ数十年で急増しています。
ほとんどのイグジットがM&Aによるといっても過言ではありません。日本のベンチャー市場においても、このベンチャーイグジットに「M&A」が活用されはじめています。
このため、IPOを目指す場合にも、M&Aイグジット(バイアウト/会社売却)との比較検討をしておくことは重要ではないかと思います。

さて、ではIPOとM&Aを比較するとどのような違いがあるのでしょうか。詳細は後述の『2. IPOとM&Aのメリット、デメリット』でご説明しますが、IPO後には株式を一気に売却しにくくなる点は先にお話ししておくべきでしょう。

(1) IPO後は規制等により株式売却が比較的困難になる

まず会社がIPOすると株の売却について色々な制限を受けます。代表的なものとして、TOB規制に代表される各種規制等により株式売却時の処理が煩雑になることや、インサイダー取引規制により売買時期を慎重に検討しなければならないこと等が挙げられます。後者のインサイダー取引規制においては、実際に大手証券会社等のプロのアドバイスを元に株式を売却したにも関わらず検挙に至った事例もあるようですので、慎重な対応が求められます。

ただ、勘違いされているケースが多いこととして「IPOすると株が売れなくなる」というものがありますが、そんなことはありません。例えば、IPOして時価総額が相当な高値がつけばそれはそれで嬉しいでしょう。しかし、この場合、例えば、EV/EBITDA倍率で30倍の評価がつくとしましょう。こうなると、一般的な成長力しかないような企業の場合、多くの買収は買収することができません。このため、「一気に売却」というのが難しくなる場合があります。とはいえ、一定の規制等に留意することで、当然ながら売却することはできます。相対的に注意すべきことが多くなり、一気に売却するということはしにくくなるというのが現実的な捉え方でしょうか。

著者の運営するブルームキャピタルのようにM&A事業を行っている場合、大企業からベンチャー上場企業を買収したいのだが・・・という提案をよく受けます。その際によくある帰結としては、「あの会社はまだPERが高いから、PERが30倍程度になるまで待って、それから買収提案を一緒にするという戦略でいきませんか?」ということになるケースがとても多いです。これはこの事実を如実に表すものだといえます。

(2) オーナー経営者が株式売却するとレピュテーションリスクがある場合も

さらに、オーナー経営者が株式を売却する場合、市場や従業員、会社関係者に対するレピュテーションリスクも検討せねばなりません。
オーナー経営者が株式を売却するということは長期的に株価が下がるのではないか?との印象を持たれたり、株式売却時に市場での「売り圧力」により株価下落リスクもあったり、投資家への説明が難しくなるケースもあります。

以上で説明した理由により、一気に株式を売却し利益を確定させることが難しく、且つ面倒になるという側面があります。きれいに全株を一気に売却している上場企業オーナーが少ないのはこういった背景があります。

IPO時に自分の持分の株式を市場に「売り出し」する場合は、すぐにキャッシュが手に入ります。しかし、IPO時に一気に保有株全部を売却することは現実的ではありません。
当然、オーナー社長がIPO時に一気に株式を売り出し、「これから会社を長期的に成長させます」とはなかなか言えないですよね?

他にも、IPOした場合、上場維持コストとして1億円以上のコスト増になるのが通常ですし、決算発表ごとに様々な手続きが発生したりします。もちろん、こういったデメリットに鑑みてもあまりあるメリットがIPOにはあります。しかし、このメリットを享受できるか、またはそれをメリットと感じられるのか?という点はオーナー経営者や会社の性質次第ということになるでしょう。

IPOとM&Aのメリット、デメリット

上記では「IPO後は株式を売りにくい」というデメリット部分について書きました。しかし、もちろんIPOとM&Aは、それぞれメリットもあればデメリットがあります。

以下にて、簡単にメリット・デメリットをまとめました。これが全てではありませんが、大まかにメリット・デメリットは把握頂けることでしょう。

こういったポイントに注意して、皆さんの会社のイグジット戦略を決めると良いでしょう。

IPOのメリット・デメリット

■メリット

  • 今後の資金調達がやりやすくなり、オーナー経営者が主導権を持ちつつ継続して事業拡大を進められる。
    →一般的にはこれが最も大きなメリットでしょう。現状のまま、どんどん会社を大きくしていきたいとなれば、このメリットはとてつもなく大きなものとなります。
  • 取引先・金融機関などに対する信用力向上が図れる
  • M&Aに比べて時価総額規模が大きくなることもある(もちろん、小さくなることもある)。場合によっては、利益額から通常の企業価値評価手法で算定される企業価値を大幅に上回る時価総額になるケースもある。
  • 従業員のモチベーション向上につながる
    ・・・等

■デメリット

  • 一定の利益額と成長トレンドが必須であり、監査や準備等で上場までには最低2〜3年といった時間が必要
  • 株式市場のトレンドによって上場のしやすさや上場時の株価が変動する
  • 株式売却時の手続きが煩雑になる(TOB規制に代表される規制、一定以上の株式取得には大量保有報告書等の提出義務が生じる等)
  • 幹部メンバーによる株式売却は、市場への悪材料になる可能性がある
  • インサイダー取引規制のために売買時期の判断が難しい
  • 上場の準備・維持に多額の事務コスト、監査法人コスト等が発生する
  • 決算発表、有価証券報告書、など、企業情報の開示が義務付けられる
  • 短期的な数字を求められる場合が多いため、中長期的な視点での企業経営がしにくい
  • オーナー経営者による自由な経営がしにくくなる
  • オーナー経営者が事業に飽きたり、新しい事業に専念したい場合に問題が生じ得る(オーナー経営者が若い場合、このケースはよく見かけます)
    ・・・等

M&Aイグジット(バイアウト/会社売却)のメリット・デメリット

■メリット

  • 準備期間が短期間でも実施可能。
  • 大量の保有株式を一括して売却しやすく、一気に資産のキャッシュ化ができる。一般的にはこれが最も大きなメリットでしょう。
  • 利益額が少なかったり赤字だったとしても、Buyer企業との事業シナジーがあれば株式譲渡は実現可能。
  • M&A先の企業次第で、取引先・金融機関などからの信用度がプラスになる。
  • Buyerが大きなシナジーを見込んで企業価値評価をした場合、IPO以上の企業価値で売却が達成できるケースも多い
  • シナジーにより企業価値が急上昇した場合で一部の株式をオーナー自身が継続保有した場合、将来的に単独では達成しえなかった時価総額での2度目のイグジットが期待できる
  • シナジー次第では、自社単独で事業運営した場合に比べて爆発的な成長も期待できる
  • 短期的な利益追求が不要となるため、柔軟な事業運営が可能
  • オーナー自身が既存事業に飽き、新しく別の事業に100%フォーカスしたい場合には、イグジットで得たキャッシュとM&Aによりイグジットしたという実績を用いて売却後に自由に新事業にコミットできる
    ・・・等

■デメリット

  • 会社売却により、オーナーが経営主導権を握ることができなくなる可能性がある
  • オーナー企業のままIPOを経験したという実績は作れなくなる
  • 株式売却はしやすいがIPO後の評価時価総額に比べ、低い時価総額でのイグジットになるケースも多い

いかがでしたでしょうか?

ただし、これもケースバイケースであり、会社やオーナー経営者の状態または考え方によって、いずれかのメリットまたはデメリットが増強される等、ケースにより判断は変わってくるでしょう。本書「会社売却とバイアウト実務のすべて」のP25に記したチャートのように、プライベートの生活の重視度、自分が完全オーナーであることによる拘り、マネジメント能力にかかる自信、あまり「表に出る」のが嫌い・・等の事情があれば、IPOすることでオーナー経営者自身の幸せからは遠のいてしまうということもありえます。また、その逆もあります。

会社の個別性という意味でいえば、キャッシュフローが潤沢で、将来性が高く、かつ新規性や技術力が非常に高く、また(本質的な価値ではありませんが)メディア等に取り上げられることも多い企業等の場合、M&Aではあまり評価対象とならないケースにおいても、IPOであれば、時価総額が驚くほど上昇するケースもあります。これも、また逆のケースもあります(M&Aの場合は、シナジーを高く評価してくれる企業に適切な方法でアプローチすることで、内部情報を知らない第三者から見ると信じられないような企業価値がつくケースもある等)。

最低限、こういったポイントを押さえておくことは、IPOとM&Aを比較する場合に重要となるように思います。

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