会社売却とバイアウトそして事業承継の物語 M&A・バイアウト・イグジット

会社売却とバイアウトそして事業承継の物語 25話 ~M&A、交渉の要諦~

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買収者による最終的な条件提示 ~2018年7月5日~18日~

(本稿は物語の途中です。物語の冒頭に戻るにはこちら

マネジメント・インタビュー終了後も、N社とS社は五月雨(さみだれ)式にQAを送ってきた。様々な質問がなされたが、7月15日を過ぎると、徐々に質問数が減少し、最終入札日を待つ段階に入った。樫村は、N社とS社にDDの進捗状況を聞くために連絡した。まずはN社である。樫村は堀口の携帯宛てに電話をかけた。

樫村 「堀口さん、お世話になります。ご検討状況いかがですか?」

樫村は堀口が手慣れていることを知っていたので、状況をざっくりとした口調で質問した。

堀口 「ご連絡ありがとうございました。DDも終わって、弁護士事務所と会計士事務所からレポートが出ました。基本的には進めたいと経営陣も考えているので、いまはファイルでいただいた株式譲渡契約書ドラフトをこちらで編集しているところです」

樫村は安心し、もうひとつ気がかりな点を質問した。

樫村 「ありがとうございます。それで、スケジュールについてですが、以前、御社では、週1回の投資会議があってそこで全役員の方に情報共有していただいていると聞いていましたが、いまも同じですよね?」

堀口 「はい。やり方は変わっていませんし、いまのところ全役員が進めることに基本的には同意してくれています。社外取締役にも前月の取締役会で確認していますが、基本的には最終決議でNGにならないようにうまく根回ししていますのでご安心ください」

樫村 「そうですか。了解です。それでは最終入札予定日前には予定どおり御社内での決裁はできそうですか?」

堀口 「はい。その予定で動いています。また、いただいたお電話で恐縮ですが、弊社でも受入れに伴うチームを作りましたので、ぜひFT社の役員さんと現場の方を含めたミーティングを開始させていただければと考えています。日程調整をさせていただけませんか? 最終入札日に近いので、できるだけ早いタイミングでお願いしたいと思っています」

このようにコミュニケーションが進んでいった。なお、樫村は、上記のとおり、投資会議での共有の頻度とスケジュールを堀口に質問したが、これは非常に重要な確認事項である。通常の会社は代表取締役の他、複数の取締役(社外含む)を中心として意思決定がなされるが、これら取締役の全員の意見が一致するとは限らない。

また、場合によっては、代表取締役よりも意見の強い取締役、取締役らの意見を一言で覆すほど力のある顧問や監査役が存在するケースもある(会社法に照らすと場合によっては適切なガバナンスとはいえないが)。したがって、会社の規模にはよるものの、可能な限り全役員(意思決定権者)に「M&A取引の検討過程」に関与してもらうように進めないと、最終決裁会議等の際に何が起きるかわからない怖さがある。堀口はそのあたりをうまく理解しており、全役員との調整を行っていたようだ。

人はだれでも、「自分が主導して関与しているもの」に対しては愛着が湧くが、そうでない場合は逆の感情を抱くことも多い。このような感情論が原因でM&Aが破談になる…ということもあるのだ。M&Aに慣れている会社は、M&Aの責任者がこれらのことを理解しており、根回しが上手だったり、M&A責任者に十分な権限移譲がなされている場合も多く、最終段階でNGになる可能性は相対的に低い。

当然、同日中にS社にも連絡を入れた。S社も同様に株式譲渡契約書をドラフトしている最中だとの回答であった。

最終契約交渉の風景 ~2018年7月21日~25日①

そして、とうとう最終入札日を迎えた。N社、S社両社の機関決定会議は、それぞれ午前中に行われると聞いていたことから、樫村は午前中はデスクで作業をしながら両社からの電話を待っていた。午前11時過ぎに電話が鳴った。N社の堀口からだった。

堀口 「樫村さんですか? 堀口です。会議通過しましたので、譲渡契約書の修正したものを、お2人にお送りしますね。また、本日の会議で、平井社長に一定期間、顧問として残っていただきたいという意見が多くありました。このことも念のため株式譲渡契約に明記していますので併せてご確認ください」

樫村 「ありがとうございます。それではメールをお待ちいたしますね。受領いたしましたらすぐに平井社長に転送します」

この電話の直後にN社から株式譲渡契約書ドラフトの修正版が樫村に送られてきた。入札日だったことから、皆のスケジュールを事前に調整していたので、早速、平井、樫村、川村および平井の顧問弁護士がFT社に集まり検討会議を行った。ドラフトは次のように修正されていた。

樫村が、契約書の全体を平井たちの前で読み直した。その後各項目について解説しつつ、平井に確認してもらう作業がはじまった。樫村が口を開いた。

樫村 「それでは清水先生が中心となって1つひとつみていただきましょう」

清水 「まず金額ですが企業価値が1億円減額されていますね。全体の企業価値が20億円で、全体の株主価値が約19.7億円。優先分配等も考慮して残る平井社長保有の普通株式の対価は約14.8億円となっています。これは別途、合理的な説明もありますので、問題ないと思いますがいかがでしょうかね? いままでの経緯をみると私は致し方ないと感じますが」

意向表明書に記載されている金額からは減額されていたが、堀口より「合理的な説明」がなされていた。数か月前の現預金残高と、6月末の現預金残高が変化していたことや、一部、非事業資産項目で減額すべきものがみつかったこと、EBITDAの実質値についての若干の減額調整が必要だった等の理由から、企業価値から減額されたのだ。細かいことを言えば、このような減額調整の項目は、その一部に将来の税額を軽減する繰延税金資産ともいえるような項目が含まれている可能性があり、その税効果分を主張し減額幅を緩和するよう交渉することもある。

しかし、ここでは影響が少ないので特段の主張はせずに進めることになった。樫村も清水の意見に同意を示し、平井のほうに視線を向けた。
平井は、たしかにそのとおりだという表情で答えた。

平井 「そうですね。これはしょうがないと思います」

清水が続けた。

清水 「次に、第4条の(クロージングの前提条件)です。まず2項⑶です。X社との著作権関係の合意書をクロージングまでに取得してほしいという内容ですが、これはすでに取得しているから問題ないでしょう。前もって処理をしていてよかったです。次に、2項⑷ですが、N社としてはVCであるホライズンの保有株式を同程度の条件で一緒に買収する合意書を事前または同時に締結したいと言ってきています。いままでもホライズンさんと常に確認をとって進めていますよね? 修正案に記載のとおり、種類株式の価格はホライズンさんと平井社長の株主間契約に定められた優先分配権およびみなし清算条項を勘案した金額で決定されるというスキームなので、これも想定どおりだと思いますがどうでしょう?」

清水の言うとおり、平井と樫村は、ホライズンの渋谷とは頻繁に進捗状況を確認しあいながら進めていた。樫村が答えた。

樫村 「ホライズンには常に確認をとって進めていますので問題ないと思いますよ。念のため確認してみましょう」

そう言って、ホライズンの渋谷に電話をしたが、想定どおり渋谷もこれまでの交渉経緯はすべて理解しており、社内調整や各種ドキュメンテーションも済ませていたことから「問題ない」と即答を得ることができた。

次に、第5条の(表明及び保証)条項だ。この条項は取引価格と双璧をなすほど重要な条項といえる。このうち、N社からは1項⑷と⑹において開示情報の正確性の保証にかかる条項、⑺において主要取引先との関係性にかかる保証条項、さらに⑻にて反社会的勢力排除条項の修正案が提示されていた。

【M&A参考動画】超重要な最終契約の要諦。失敗事例の紹介

(執筆及び監修:株式会社ブルームキャピタル 代表取締役 宮崎 淳平)

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