第一部 M&Aによる会社売却の実際 追加コンテンツ M&A・バイアウト・イグジット 書籍追加コンテンツ

会社売却経験者による対談

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本記事は、著者による『会社売却とバイアウト実務のすべて』(日本実業出版社、以下「本書」)の執筆において、紙面の関係上掲載できなかった内容を掲載した本書の追加コンテンツです。本書の40ページの続編としてのコンテンツであり、本記事単独では若干読みづらいこともありますが、ご容赦の程お願い致します。

本書では著者である宮崎が、A氏とB氏という市場では有名なイグジット経験者と対談した際の記録の一部を掲載していました。紙面の都合上、書けなかった部分をここに追加コンテンツとして記述します。本書のP40の続きからスタートします。

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宮崎:「Valuationはどのように議論したのですか?」

A氏:「僕の場合は買い手がとても大きな絵を描いてくれたので、それとの整合性については相当考えました。低いValuationを提示されるということは、それほど将来性を評価してないということじゃないですか。本当に買い手が将来の取り組みの現実性を感じていたら、いまの自社単独でこれくらいだろうなという価値を大幅に超える価値を提示されるはずなので、売り手も合意できると思うんです。僕の場合はそういうValuationを提示していただいたので合意しました。まぁはじめはこちらから許容できる最低ラインを示すということはしました。」

B氏:「僕の場合は一般的にそれほど高いValuationではなかったかもしれません。ただ、買い手は当期純利益の何倍とかEBITDAの何倍等の表現をよく使っていましたので、基本的にはそうやって考えていたんだと思います。当社は利益はある程度出ていたので、そこから評価してもらった感じです。なので交渉中に月次損益が変に落ち込まないように注意していました。」

宮崎:「Aさんとしては価格目線は売り手側から言うべきだと思いますか?」

A氏:「僕は言うべきだと思います。理由としては、先方が出してくれるValuationは売り手の目線からは通常大きく下回るものなので、そこを議論のスタートにしてもしょうがないからです。特にうちのようなベンチャーならなおさらです。また、DCF法などの将来キャッシュフローを基準とした評価をするとしても、その結果はシナジーの大小により大きく異なるはずですが、通常買い手側からこれらを積極的に評価して価格提示をしてくれるかといえばそれは稀なのではないでしょうか。逆に、対象会社のことをよく知っている売り手が「どのくらいのシナジーが生まれうるのだろう」ということをある程度考えておくことは重要だと思うんです。僕の場合、FAの方に協力を仰ぎつつ価格の根拠などの説明も作っていきましたが、シナジーを考える過程で買い手候補も絞られてきました。」

宮崎:「買い手側は当初どういう反応でしたか?」

A氏:「僕の場合、金額を言った後はそれほど問題もなく交渉がスタートしましたね。ここでもし先方の許容額を大幅に超える提案をしていたなら話は進まなかったと思います。あまり欲をかきすぎて論理的ではない価格を主張すると向こうの評価も下がりますからね。ただ、ある程度理由づけができるのであれば、買い手としても他に取られたくないというのもあると思うので、本当に欲しければ検討してくれると思います。」

宮崎:「お二人とも事業計画や将来の財務プロジェクションは自分で作りましたか?」

A氏:「こちら側(売却者側)でも作ったし、買い手側でも作っていました。根拠データを説明しながら細かいプロジェクションを提示したことで明らかに話の速度が変わった実感はありますし、議論のポイントを絞ることもできます。プロジェクションは細かい材料も含めて売り手の方で考え提出することが非常に大事だと感じました。直近数年はPL、BS、CFが連動したモデルを策定し、遠い将来についてはPLのみ作りました。買い手側はここで策定したプロジェクションにシナジーをどれくらい加えられるか?等という議論をしたり、より合理的な数値に一部修正したりして、これをベースにDCF法で評価していたようです。」

B氏:「僕の場合はFAを付けましたのでFAがすべて策定してくれました。ただ相当会議はしましたね。数時間会議して販売数がどうなるだの、営業マンが一か月で何件顧客開拓できるか、市場規模からみてこの計画売上は変な数字ではないか?等といろいろと議論して非常に細かく作りました。大変ではありましたが、この作業はとても経営上も有用で、M&Aが失敗しても使えるなと感じていました。」

宮崎:「実際に取引が始まる前にDCF法とか類似会社比較法だとかの企業価値評価については知っていましたか?」

A氏:「ある程度は知っていました。DCFの理解はとても大事だと思います。実際に計算ができるかというと自信があるわけではありませんが構造の理解は経営者にとって必須だと感じました。なぜこういう理論で金額がはじけるのかを知っておくのは売却においても事業経営においても重要だと思っています。」

B氏:「僕の場合はかなりFA任せでしたし、当初から企業価値評価法についての知識はあまり持ち合わせていませんでした。ただ、交渉中にFAの方からDCF法と類似会社比較法については十分に教えてもらうことができたので、どんな要素が価値を左右するのかについてはしっかり理解ができました。なので、いかに今後のCFが安定的に推移するかについてうまく主張できるように準備したいという希望はありました。実際に僕の会社は安定的なモデルだったので、普通に主張できたのですが、より細かく理論武装できたおかげでよりうまく安定性を伝えられたと思います。」

宮崎:「組織に対してM&A後にどうなるのか?という不安はありましたか?また、クロージング後に重要になるポイントについてご意見を聞かせてください。」

A氏:「もちろん不安はありました。一番気がかりだったのは、役職員が精神的にも経済的にも不利益を被ることが無いようにしたいという点でした。たとえば、IPOはわかりやすい目標ですが、IPOという目標がなくなることに役職員はどう考えるのだろうか?ということは考えました。私自身は、今回のM&Aを実施したほうが、IPOした場合に比べてもスピード感をもって大きな目標に到達できると確信していましたが、M&Aがマイナスに映るカルチャーもまだ残っているのが日本です。このあたりは注意してM&Aの目的などを十分に説明し、どういった目標を目指していくのかという説明を社内にはきちんとしたつもりです。また、インセンティブプランについても十分に協議しました。弊社の場合はストックオプションを以前から発行しIPOに向けて皆頑張っていたので、ここがなくなってしまうと少し問題が起こると感じました。そこで、買い手と相談して、インセンティブを役職員が得られるように工夫をしました。これには税理士さんなどとの相談もかなり重ねました。あとはうちのように経営陣が一部残るケースについては意思決定ルートや権利について十分に詰めておくのも重要だと感じました。僕の知人はこの整備が不足したことでうまく統合が進まなかったと聞いていたので、この点はかなり慎重に事前協議し契約である程度合意しておくことにしました。」

B氏:「僕の場合は僕自身が取締役として残るような形ではなかったので、おそらく会社に残られるAさんよりはそこまで深く考えませんでした。ただ、従業員のうち何人かは僕自身も相当恩義を感じていたし、実際に事業経営上重要でしたのでうまく彼らにインセンティブが入るような設計はしました。ただ、僕自身思うのは、たとえ取締役として残らないとしてもしっかりと引継ぎや売却後のサポートはすべきだということです。M&A取引において売り手側がどのように対応したということはすぐに業界で話が広がるものです。もう売却して時間がたちますが、いまだに買い手側の担当者から色々と相談がきますので、特段の報酬をもらわずに最低限の対応をさせていただいています。あと、これは弁護士さんと協議すべきことだと思いますが、M&Aによる売却後にトラブルになるケースをよく聞きます。買い手企業が上場企業だからといってすべての企業が紳士的な対応をするわけではないようなので、最終契約書の締結に当たっては非常に細かくチェックしたほうがいいと思います。開示した資料が正確かどうか、少しのミスがあったら買戻し条項に該当する等といった文言になっていないか?等、バランス感覚が欠けた契約になっていないかという点はとても重要です。僕の場合取引の途中で弁護士を変えたのですが、最初の弁護士と変えた後の弁護士で大きくレベルの差がありました。丁度契約交渉中だったのですが、前の弁護士では気づかなかった点を後の弁護士がいくつもピックアップして売却後に問題となりうる契約文言等を指摘してくれました。あのときは本当にぞっとしたので、弁護士をどうするかはとても大事だなという印象です。」

宮崎:「お二人ともありがとうございました。最後にこれからIPOやM&Aを考えている経営者に向けて何かあればコメントいただけませんか?」

A氏:「僕自身はM&Aイグジットの経験からいろいろ学びました。その中の一つはオーナー経営者がどのステージまで経営権を持つべきかという点です。僕自身はステージにより適切なオーナーがいるのではないかと思っています。話せば長くなりますが、スタートアップ段階からある程度キャッシュフローが黒転するくらいまでの経営が得意な経営者もいれば、そこからIPO、IPO以降の長期的経営が得意な経営者もいると思います。また、「得意」とはその経営者自身が本当にその仕事をやりたいか?ということも含まれます。このあたりをよく考えて、M&Aイグジットの判断をすべきなのではないでしょうか。M&Aイグジットのタイミングを考えるにあたっては、以下の流れをまず考えると良いと思います。オーナー経営者が会社を創業すると、①一番最初がアイデアとかサービスの面白さ(先行優位性)を発見する段階、次が②それによって得られたノウハウとかコネクションにより売上が出始めるがボリュームがまだない段階、この次が③成長段階、その後④オーナー経営者自身が資産形成された段階を経ます。M&Aイグジットを考えるのであれば、②か③の段階でM&Aイグジットを検討するのが特にベンチャー企業においては最も典型的なのではないでしょうか。この段階では別の選択肢として、大型のファイナンスを得てIPOを目指すというものもあります。ただ、当時の私が悩んでいたのは、日本では大型ファイナンスが付きにくいという点です。海外だとマイノリティの増資でもValuationが100億~1000億単位でつく場合がある。海外ならここから急拡大しようというインセンティブは生まれやすいのですが、最近は少し変わり始めているものの、まだまだ日本だと10億前後でも大型ファイナンスだ等と言われます。これでは、様々なサービスには「旬」があることも考えると、世界の企業に比べて成長スピードが遅くなり、また成功可能性も劣ってしまうことになります。その意味では日本においては、会社が勢いのある時期にM&Aイグジットを選び、米国式の大型ファイナンスの代わりに大企業傘下で急成長を目指すというのは合理的判断となり得るのではないかと考えています。この辺りは経営者の考え方、最後までどういうビジネスをしたいかということによるのではないかと思います。」

B氏:「M&Aイグジットを考えるにあたって、短期的なキャッシュを考えて動くというのは僕自身は良くないことだと思います。目先のチャンスだけでなく将来の目標を考えた上でのアクションをしたほうがいいと思います。意思のないM&Aは失敗すると思うんです。また、IPOはM&Aイグジットではなく、ゴールでもありません。IPOをゴールととらえ、その先の経営イメージが軽薄な場合は、M&Aイグジットしたほうが経営者としては幸せなんだと思います。僕の友人を見ていても、IPOによりさらに成長へのプレッシャーが強まり、売上増加に伴い成長させる難易度も上がり、一息つくどころではなくなるようです。IPOは会社としての事業資金、ブランド、知名度を得て成長させるためのきっかけをつくるものなので、こういったことを考えて経営者としての意思決定をすればよいのだとおもいます。あと、僕はM&Aイグジットをした立場ですが、M&Aイグジットは短期的にキャッシュを獲得することができますが、一方でその後、売り手自身を追い込むものだとも感じています。特に今まである程度順調に会社を成長させてきた若い経営者であれば、売却後の適切なタイミングで新たな活動に取り掛からなければ、こんな状態ではダメだという強いプレッシャーがかかります。つまり、先ほど言ったように短期的なキャッシュを目的としてM&Aイグジットをするのではなくより長期的な視野にたって考えるべきであり、そう考えることができればこのプレッシャーが長期的な大きなプラスの効果を生むと思うのです。」

宮崎:「今日は色々と長い間ディスカッションにお時間をつかっていただき有難うございました。」

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