M&A・バイアウト・イグジット 第五部 売却実務上のその他のポイント 追加コンテンツ 書籍追加コンテンツ

インフォメーション・メモランダム(IM)の作成

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本記事は、著者による『会社売却とバイアウト実務のすべて』(日本実業出版社、以下「本書」)の執筆において、紙面の関係上掲載できなかった内容を掲載した本書の追加コンテンツです。本書の375ページの続編としてのコンテンツであり、本記事単独では若干読みづらいこともありますが、ご容赦の程お願い致します。

本書ではインフォメーション・メモランダム(IM)についての概要、記載する代表的な内容(目次)、特に重要な「ビジネスフロー」記載のポイントについて述べました。ここではさらにIMの記載内容について解説したいと思います。

IMの記載内容

本書でも掲示していますが、IMの代表的な見出しは以下のとおりです。

大分類小分類
はじめに本資料の目的
本資料の取扱方法
本資料にかかる問い合わせ先
エグゼクティブ・サマリー会社概要と投資ハイライト
考えられるシナジー
会社情報会社概要
沿革
株式・株主の状況
株主間契約の状況
種類株式タームシート
訴訟及びリスク
組織組織図
グループ会社情報
人事上の課題と今後の戦略
現経営陣略歴
市場市場の概況と展望
対象市場の細分化
競合環境
競合企業分析とマルチプル
考えられる外部リスクとその回避策
事業内容ビジネスフロー
商流とバリューチェーン
強み(競合優位性)とその継続可能性
マーケティング、販売手法、チャネル
主要プロダクト
製造
営業活動の現況分析
売上・利益向上における課題
既存事業の垂直・並列的拡大可能性
考えられる内部リスクとその回避策
財務会計方針と会計基準
年次決算推移
月次決算推移
主要資産明細
実質的損益の分析
主要KPIの推移
売上原価の内訳と推移
販売管理費の内訳と推移
役職員数の推移と人員計画
今期の直近実績
プロジェクション(5カ年分)
主要KPIの予測
主要KPI予測値の根拠分析
重要KPIの改善・補強策の検討
設備投資計画
運転資本増減予測
タックス・プランニング
返済計画と財務制限条項
重要顧客との取引とその継続性分析
計画未達リスクとそのケース分析
役員間取引の有無とその内容
その他重要な補足情報
ディスクレーマーディスクレーマー

この内容はあくまでIMに記載される代表的な内容であり、ケースにより加減していきます。ここではこれらの記載内容のうち重要だと思われるものについて説明をしていきたいと思います。

IMの記載内容を考えるにあたり重要な点は、「投資判断に十分と思える情報を網羅的に記載する」、「リスク情報は積極的に開示する」、「情報流出可能性が0%ではないと考えて流出するとクリティカルな問題に発展しうるような情報は敢えて開示しない」ということになるかと思います。最後については特に重要です。如何に秘密保持契約を締結しているからといって、「情報流出リスク」は0にはなりません。この点には注意が必要です。特に「第三者との間で対象会社が秘密保持義務を負っている情報で、かつ流出した場合に関係者が金銭的損失を被る可能性がある」ような情報については開示を控えておくことが重要です。こういった情報は、詳細DDにおいて開示したり、「閲覧のみの開示」としたりといった手当をすることになります。このIM開示段階で開示すべき情報の選別はフィナンシャルアドバイザーと連携して協議していくと良いでしょう。

 

各項目の記載要領

エグゼクティブサマリー

エグゼクティブサマリーとは、IMを投資家側のエグゼクティブ(高位の役職者)が見たときに、1分程度時間をかけて読むことで対象となる投資案件のアウトライン及び魅力を伝えることを目的として作成されるコンテンツです。従って、投資案件の重要な情報を、その投資の魅力についても触れる形でコンパクトにまとめていきます。考え方としては、IMで説明する全ての事項を1ページ~2ページくらいにまとめていくものと考えれば良いでしょう。

特定の買収者候補とシナジーがあるような場合で、それが大きな判断材料になると考えられる場合は、その内容について触れておくことも効果的です。

 

会社情報

会社の基本情報をまとめていきます。特にM&A取引で買収者側が知りたいであろう事項については、積極的に情報を付記していきます。例えば、会社概要には、公告の方法や株券の発行状況、株式譲渡承認手続きの定め等を記載しておくと親切です。組織再編(株式交換や合併)等で取引が進む場合には、これらの定めによって行うべき手続きやスケジュールが相当変わってきます。

また、株主名簿には潜在株式の発行状況についても記載してくことが重要です。これにより顕在株式の1株当たり株価の算定が初めて行えるようになります。特に、「異なる種類の株式」、一般的に「優先株式」とか「種類株式」といったようなものを発行していたり、特殊な資金調達スキームを採用している場合は、これらの内容をタームシート形式にしてまとめておくと、投資家側は投資判断がしやすくなります。

組織

経営陣の略歴等にはじまり、会社の組織図等を記載します。会社の組織図を記載する際には、各部署に何人くらいの従業員が所属しており、各部署がどのようなビジネス上の機能を有するのかについても明記しておくと分かり易いでしょう。また、組織図には「会社の強み」が隠れている場合があります。例えば、本書にて説明しているような結婚相談所サービスのように「オペレーターや相談員」の教育システムが重要な会社の価値となっているような場合、組織図においてその旨を強調する等しておくことで、読み手が会社の価値を理解しやすくなります。

グループ会社の情報もこのような項目に併せて記載しても良いでしょう。この場合、グループ会社の名称、会社間の株式の持合い関係、事業上のそれぞれの法人の機能、年間取引額、キーマンの兼務状況、第三者の株主が存在する場合はそれにかかる情報(これについては開示しない判断をしてもよい)、第三者の株主が存在する場合その合弁契約にチェンジオブコントロール等のディールに影響する条項が含まれる場合そういった情報(これについても開示しない判断もあります)等を記載しても良いでしょう。

また、本件後にオーナー経営者が退任する場合には、退任後にどのような指示系統で事業を回してくのか、それが実現できる理由等を記載しておくと良いでしょう。

市場

市場規模の評価

市場の分析は非常に重要な論点です。会社を売却しようとする場合には、本書でも再三指摘しているとおりプロジェクションを策定します。市場の分析はこのプロジェクションを根拠の一つでもあります。

プロジェクションはまずはじめに細かい要素を積み上げて売上高を算出していきます。言ってみれば本書でいうミクロ・アプローチです。一方で、市場の把握は本書でいうマクロ・アプローチに材料を与えるものといえます。例えば、市場規模を分析し5年後の市場規模がおよそ300億円程度になることが見込まれるとしましょう。その場合に対象会社の5年後の同市場における事業の売上予測が200億円となっていた場合、対象会社が5年後に市場の2/3の市場占有率になるということを意味します。一方で、仮に5年後の売上高が30億円というプロジェクション上の予測であれば、市場占有率が10%であることを意味します。

多くの場合、事業環境を考慮した場合に将来の市場シェアが2/3を占めると予測するのは合理的ではないということになります。もちろん、市場シェア2/3が適切であると考えても良いケースもあれば、10%でも高いと見込まれる場合がありますが、この辺りはケースに応じて判断していくしかありません。この比率の妥当性は競合環境や自社の強みなどから総合的に判断されるべき事柄です。このような評価は市場規模とその予測なしには行うことができません。この意味で、市場係数はプロジェクションの根拠の一つとなります。

IM作成にあたり、市場調査する場合には、「どのような数値を調べればプロジェクションのサポートとなりうるか」という視点で資料を作成してゆくと良いでしょう。

市場データについては、市販の書籍およびダウンロードデータや日経テレコンなどの有料サービスを購入しても良いですし、インターネット上で無料で入手できる情報を活用してもよいでしょう。また、著者などは国会図書館や業界団体事務所などで情報収集することもあります。業界団体事務所などが発行する業界紙などは市場規模だけでなく業界構造や競合分析にも活用できるため、一度見てみると良いでしょう。少なくともプロジェクションの最終年度にどの程度の市場規模が見込まれるのかというデータは売却サイドとしては必須のデータだと考えられます。優秀な事業責任者であれば、事業をあらたに始める際に、必ず市場規模やその見通しは調べますね?それと同じことです。

競合環境と競合企業分析

競合環境の分析も重要です。これもプロジェクションの将来性(つまり事業の将来性)を占う上で非常に重要なものと成り得ます。また、重要な裏付けにもなります。なぜならば、競合環境の状況は顧客獲得数や利益率、加えて数年後の市場シェアにも影響を与えるものとなるからです。分析すべき内容は、例えば以下のようなものになります(ただし記載内容や深さはケースにより適宜検討する)。

  • 競合企業および代替的商品・サービスを扱う企業(※)のリストアップ
    →明確な脅威となる競合の有無、競合のサイズ等を調査。
  • PEST分析
    →「Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)」の観点で今後対象事業の市場がどのような影響を受けるかを検討。
  • 5フォース分析(マイケル・ポーターが提唱するフレームワークを用いる等。)
    →競合を「競合」だけでなく、「代替品」「新規参入」「買い手」「売り手」に広げて分析することでより外部環境分析を深めることが可能。特に利益率等に影響。
  • 競合と比較した強み・弱み分析
    →事業の差別化ポイントとなる細部の比較し自社の現状と今後の戦略を検討する。分析する場合は細部の重要なポイントを比較することが重要。例えば、サービス業であり競合他社の特殊な顧客対応方法が自社と比較して大きな強みであれば、その内容を分析し自社での対応策を検討しその内容を記載する等。
  • 競合の財務情報を鑑みた自社分析
    →競合企業の売上高、売上成長率、売上総利益率、営業利益率、M&A実績、昨今の経営状況等を分析し、競合企業の内容を分析。例えば、売上総利益率が自社に比較して競合他社が高いという場合にはその理由を分析、自社での対応策を検討する等。
  • 競合上場企業のマルチプル分析
    →競合企業が上場していれば、直近のEV/EBITDA倍率やPER等を調べておきます。これにより、自社の評価額を説明する根拠となります。本書で説明するとおり、類似会社比較法による評価においては、評価対象株式が非上場である場合、一定のディスカウントを掛ける場合がありますが、その前提の倍率を調査しておくことは重要でしょう。
  • リスク
    →市場環境及び競合環境によっては、対象会社のプロジェクションを悪化させるリスクが存在する場合があります。こういったことを事前に調べ、買収者側に指摘される前に整理しておくことは重要です。

※代替的商品・サービスを扱う企業とは、対象企業の商品またはサービスが満たす「顧客ニーズ」を満たすことができる、類似する別の(新たな)商品・サービスを指します。例えば、ペットボトルの水を自社商品として個人向けに販売するような企業であれば、ウォーターサーバー提供企業等は代替的商品・サービスを扱う企業として見做すべきです。

事業内容

ビジネスフロー

続いてビジネスフローです。解説は本書に譲りますが、このビジネスフローは非常に重要なものです。ビジネスフローは、それを読み手が見ることで、ビジネスモデルが殆ど理解できるようなものにしなければなりません。基本的にはチャート形式で図を用いて記載していきます。

本書で例示したように、資金の流れと商品・サービスの流れ、決済方法、自社商品・サービスの仕入元、販売チャネル、自社の顧客の立ち位置、製造機能の明示、特に高い価値をもつバリューチェーンにかかる説明等を含めます。これらのポイントに注意しながら、誰が見てもビジネスモデルが判るようなフローチャートを記載しましょう。

強み(優位性)と課題

強みや弱みについては、特定の戦略や目標をもって事業に携わっている売却者(オーナー経営者など)であればすぐに思いつくものでしょう。顧客や競合を考えた場合の機会や脅威についても同様です。こういった情報はSWOT分析(※)など既存の有益なフレームワークを用いて記載してゆくとわかりやすく整理できるでしょう。また、特に経営上重要な「強み」については、ノウハウが流出して不利益を被らない範囲で詳細に説明するページを新たに追加して策定しても良いものと考えています。一部「市場」にて記載されたコンテンツと重複する要素があっても構いません。

その強みがどのような数値的インパクトをプロジェクションに与えているのか(例えば、「解約率」が増加しないのは、この強みがあるからだ・・・等)、強みがどれくらいの期間維持できるのか、逆に弱みは改善できる余地があるのか、改善した場合にプロジェクションがどのように変化していくのか等にも触れていくことでプロジェクションの根拠を強めることもできます。

※SWOT分析: 内部環境を「強み (Strengths)」、「弱み (Weaknesses)」とし、外部環境を「機会 (Opportunities)」、「脅威 (Threats)」と定義し、これら4つのカテゴリーで要因分析を行うことで、特定の目標を考えた場合の経営戦略を策定するための分析手法。詳細は別途Webまたは関連書籍を参照のこと。

その他

その他、事業運営上重要となる事項についてまとめていきます。上表では「マーケティング、販売手法、チャネル」、「主要プロダクト」、「製造」、「営業活動の現況分析」、「売上・利益向上における課題」、「既存事業の垂直・並列的拡大可能性」、「考えられる内部リスクとその対策」として例を挙げていますが、ここでの記載方式は自由です。対象会社の価値説明やプロジェクション説明に重要な補強となりうる情報、将来プロジェクションを悪化させうる情報等、様々な観点で熟慮の上、コンテンツを入れていきます。

財務

最後に重要となるのが財務にかかる情報です。こちらは上表に記載したようなコンテンツを埋めていきます。結論的には上表に記載したコンテンツを埋めていけば完成はしますが、以下の点には注意を払うと良いでしょう。

  • 会計方針と会計基準は明記すること
    →この認識ギャップにより訴訟直前の状況になるケースもあります。「税抜/税込」の別、「発生主義/現金主義」の別、「工事進行基準の適用方法(近い将来廃止されますが)」、「決算整理における特別な手当ての内容」等には特に注意を払うと良いでしょう。
  • 財務諸表のうち金額の大きなものについての注記
    →金額の大きなものについては、その内容と内訳(相手方、金額)等を説明しておかなければ読み手が評価できません
  • 「推移」については説明を
    →PLにしろ、BSにしろ、KPIにしろ、その「増加」または「減少」の推移がある場合には、その背景や今後の見通しについて触れておくことが肝要です。
  • 実質的な損益分析は行うこと
    →本書で解説したような「買収後不要コスト」や「ホッケーカーブ」等といった論点はならず調査の上、実質的な損益の分析をしておきます。これは売却者側にとってやっておかなければ損です。
  • 主要KPIの推移は掲載した方がよい
    →買収者側は売却者側のプロジェクションを参考に、自身でもプロジェクションを策定します。この際に、過去のKPI情報がなければその作業ができません。
  • プロジェクションを掲載する場合は根拠の説明も
    →プロジェクションを掲載する場合、そのうちの「売上高」及び「金額の大きい科目」についてはその将来予測の根拠を記載しておきます。また、現状改善すべきKPIがあれば、それの改善策の詳細、改善した場合の数値的インパクトにも触れておくと良いでしょう。
  • 借入に重要な財務制限条項がある場合の手当て
    →多額の借入を行っている会社の場合、なんらかの財務制限条項が設定されている場合があります。買収者としては非常に気になる観点ですので、そういった事項がある場合はある程度詳しく説明しておきます。
  • グループ会社が存在するが、連結財務諸表を作成していないケースの対処
    →グループ会社が存在しても、非上場企業であれば連結財務諸表を作成していないケースが非常に多くあります。買収者側としては、「利益の付け替え」「連結にした際の数値」等、多くの気になる事柄があります。このため、グループ内取引については最低限税理士等に依頼して情報をまとめておき、IMに記載しない場合でも、後のDDにおいて説明できるようにしておくと良いでしょう。専門家に依頼できる場合は連結財務諸表及び相殺仕訳内容がわかる表を策定しておくとさらに親切です。
  • 役員間取引がありその内容が財務諸表に大きな影響を与えている場合
    →例えば、役員個人に多額の貸付があり「貸付金」としてBSに大きな金額が乗っている場合や、売上高の多くが役員に関連する会社に対するものである場合など、非上場企業で役員に関連する取引が多く行われている場合があります。この場合、この内容次第では買収者側の評価も変わってくることもあります。こういった事項がある場合には、IM作成段階でそれらを整理し、場合によってはIMに明記しておくということも検討すべきでしょう(必ず後に議論となるため)。

これらの項目は基本的には過去の財務諸表、過去の管理会計上のデータやKPI管理データおよびプロジェクションから転記する形で掲載していきます。

IMは、原則的にはセルサイド・アドバイザーが主体となって作成されることが多い資料です。しかしながら、実際に経営オーナーが会社を売却するといった場合においては、先に示したIMの一般的な記載項目を参考として、特に重要だと考えられるような前出の内容等については、売却者自身でM&A取引前にまとめていくという作業を経ておくことで、スムーズかつ有利な交渉ができるようになります。

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